本質を知る人の、豊かな普通。

50年後も愛せる「ふつうの家」

家づくりを始めると、誰もが「家族のために最高の一軒を」と願うものです。カタログに並ぶ最新の性能(スペック)や、暮らしを大きく変えるという魔法のような新技術は、どれも輝いて見え、理想の未来を約束してくれるように感じます。

しかし、多くの家づくりをお手伝いしてきた中で、ふと気づかされることがあります。それは、「建てた瞬間の最高」が、必ずしも「住み続ける中での最良」とは限らないということです。

流行や技術の波にのまれるのではなく、30年、50年先も「この家でよかった」と笑い合える。そんな、時間を味方につける家づくりの本質を、一緒に考えてみましょう。

 

1│最新設備が10年後の後悔に

家を建てる時、私たちはつい「最新」を追いかけてしまいます。「一番良いものを選んであげたい」という願いは、大切な家族を想う温かい親心そのものです。しかし、技術の進歩は時に早く、最新であればあるほど、すぐに古くなってしまうという現実があります。

たとえば、特定のメーカーしか直せない複雑な電子設備や、部品の取り寄せが難しい海外製の機器。万が一、10年後に故障した際、「生産終了で部品がありません」という言葉に困り果ててしまう。そんな光景を私は何度も目にしてきました。

自慢だったはずの設備が、維持費ばかりかかる「お荷物」に変わってしまう前に、少しだけ立ち止まって、未来のメンテナンスまで想像してみることが大切です。

 

2│ふつうの家こそが一生の安心

「ふつうの家が一番ですよ」とお伝えすると、少し意外に思われるかもしれません。でも、30年以上の経験を経てたどり着いた答えは、「多くの職人が直し方を知っており、長く愛されてきた工法や素材でつくる家」こそが、最も家族を裏切らないということです。

ここで言う「ふつう」とは、決して妥協ではありません。むしろ、時代の変化に左右されない、磨き抜かれた「定番」の強さです。

特に給湯器やエアコンといった家の心臓部は、迷わず国内主要メーカーの普及モデルを選んでください。もしもの時に「近所の修理屋さんが、すぐに直してくれる」という当たり前の安心感。この安定したサポート体制に守られていることこそが、50年続く穏やかな暮らしを支える、目には見えない本当の質になります。

 

3│時とともに味わいが増す素材選び

内装には、無垢(むく)の木や塗り壁のような、自然の素材を取り入れてみてはいかがでしょうか。工業製品のような完璧な均一性はありませんが、その代わり、時が経つほどに味わい深い表情を見せてくれます。

冬でもヒヤッとしない床の質感や、深呼吸したくなるような空気感。これらは最新の機械では決して作り出せない、本物だけの心地よさです。

新品の時が美しさのピークなのではなく、10年、20年と家族の成長とともに風合いが増していく。子どもが付けた床の傷や、うっかり汚してしまった壁の跡さえも、「あの時は大変だったね」と笑い合える思い出の記録になります。そんな「家族と一緒に育つ楽しみ」がある家は、日々の暮らしに豊かな彩りを与えてくれるはずです。

 

4│資産として住み継ぐ価値を

「ふつうの家」は、一見すると地味に見えるかもしれません。でも、価値の基準を「人に見せるための性能」から、「自分たちが心地よく住み続けること」に変えてみると、景色は一変します。

流行のデザインや過剰な設備は、時間が経つほどに価値が下がっていきますが、メンテナンスがしやすく、時代に左右されない実直なつくりの家は、将来的に売却や賃貸を考える際にも、確かな価値を持ち続けます。

家の本質とは、一時の華やかさではなく、住む人の負担を減らし、世代を超えて受け継いでいける持続性にあります。流行に惑わされず、この「本質的な価値」を見極めることこそが、家族の未来を真剣に考える、最も賢い選択と言えるでしょう。

 

5│「ふつう」という名の温かな輝き

最新の設備や流行を追いかける前に、どうか一度、深呼吸して問いかけてみてください。

「家族が30年後も、このリビングで穏やかに笑っているために、本当に必要なものは何だろう」と。

その答えは、驚くほどシンプルで、素朴なものかもしれません。

派手な装飾はないけれど、ずっと変わらない安心感で家族を包んでくれる。いつでも直せて、いつでも快適で、時が経つほどに愛着が深まっていく。そんな「ふつう」という名の温かい輝きの中にこそ、どんな最新技術もかなわない、本当の幸せと豊かさがつまっています。

あなたの家づくりが、長い年月を経てもなお、家族の笑顔を優しく守り続けるものになることを心から願っています。

建築工房『akitsu・秋津』

美は、日々の営みの中に。

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