時を継承する、生命の邸宅。

時間が育てる、本物の木の家

家を建てるとき、私たちはつい「完成した瞬間」の美しさをゴールにしてしまいがちです。でも、ピカピカだった床や壁が、暮らすほどに傷つき、汚れていくだけだとしたら……それは少し、寂しいことではないでしょうか。

私が大切にしたいのは、「住み始めてから」深まっていく豊かさです。

柱や床は飴色に馴染み、子どもがつけた傷さえも家族の記憶になる。まるで使い込んだ革製品のように、時間と共に愛着が増す「経年美化」の住まい。

家をただの「きれいな箱」ではなく、一緒に歳を重ねる「家族」のように育てていく。そんな暮らしのあり方に、私は強く惹かれるのです。

 

1|不揃いだからホッとする

仕事や人間関係、私たちは外でたくさんの「鎧」を着て頑張っています。だからこそ、家の中くらいは、その重たい鎧を脱ぎ捨てたい。

でも、ツルツルにコーティングされた完璧すぎる建材に囲まれていると、無意識のうちに「きれいに使わなきゃ」と緊張してしまうことがあります。

私が本物の木に惹かれる理由は、そこに「隙」があるからです。不規則な木目、節の表情、柔らかい手触り。自然界にあるその「不揃いさ」が、「完璧じゃなくていいんだよ」と、張り詰めた心を優しく解きほぐしてくれる気がするのです。

 

2|深呼吸したくなる素材

モデルハウスや新築の家に入ったとき、特有の匂いに「ウッ」となったことはありませんか? 逆に、森の中に足を踏み入れたときの、あの胸いっぱいに吸い込みたくなる空気。私が家づくりで求めているのは、後者の心地よさです。

機械で無理やり乾かすのではなく、風と太陽で時間をかけて乾かした木。呼吸を止めない漆喰の壁。

これらが作り出す空気は、ジメジメした日でもサラッとしていて、まるで家全体が静かに呼吸しているよう。数値やスペックの話ではなく、玄関を開けた瞬間に体が正直に反応する「気持ちよさ」を、私は何より信じています。

 

3|傷つくことが怖くない家

「無垢の床は素敵だけど、傷やシミが心配」。その気持ち、痛いほどわかります。最初のひとつの傷がついたときは、きっと「あぁ、やってしまった」と胸が痛むでしょう。

けれど、新建材の傷が「劣化(みすぼらしさ)」になるのに対し、本物の木の傷は「味わい(景色)」に変わっていきます。

凹んだら蒸気を当てればいい、汚れたら削ればいい。「失敗しても、自分たちで何とかできる」。この安心感は、暮らしのストレスを驚くほど軽くしてくれます。傷を隠すのではなく、「あの時、こんなことがあったね」と笑って愛でる。そんなおおらかな時間が、ここには流れています。

 

4|窓が日常を「絵画」にする

家づくりで大切なのは、部屋の畳数や収納の量だけではありません。「ふとした瞬間に、どんな景色と出会えるか」。それが心の豊かさを決めると私は思います。

朝、コーヒーを入れる湯気の向こうに落ちる光。夕方、子どもが遊ぶ庭へと続く視線の抜け。お風呂上がりに、夜風を感じながら見上げる月。

私は窓を、ただの採光用ではなく「日常を切り取る額縁」だと捉えています。特別な場所に行かなくても、家の中にいながら季節の移ろいを感じられる。そんな何気ない贅沢こそが、明日を生きる活力になるのだと思います。

 

5|10年後がもっと好きな家

「新築の時が一番きれい」な家よりも、「10年後、20年後の方がカッコいい」家でありたい。手入れの手間は少しかかるけれど、手をかけた分だけ愛着が湧き、家族にとってかけがえのない「居場所」になっていく。

私が目指したいのは、そんなふうに時間が味方をしてくれる家づくりです。

流行り廃りではなく、自分たちの肌に馴染んでいく感覚。玄関の扉を開け、その空気を吸い込んだ瞬間に「ああ、やっぱり我が家がいいな」と心から思える。そんな家が、これからの人生の舞台になることを願っています。

建築工房『akitsu・秋津』

美は、日々の営みの中に。

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