寒い家になってしまう理由。
なぜ新築なのに寒いのか。
理想の住まいを思い描くとき、私たちはまずデザインや間取りに目を向けます。しかし、その設計図がもたらす「暮らしの質」まで想像できているでしょうか。
「新築なのに、なぜか寒い」という声の裏には、ほぼ例外なく「性能」の見落としがあります。特に、光を取り込む大きな窓や空間を繋ぐ吹き抜けは、快適性を損なう熱的な弱点になり得るのです。
これは、家の見た目ではなく「振る舞い」を科学的に捉えることで解決できる問題です。この記事では、デザインと永続的な快適性を両立させ、未来の資産価値をも高める「住宅性能」の本質についてお話しします。
1|冬の寒さ、犯人は窓
冬の室内で感じる足元の冷え。その原因はすきま風ではなく、「コールドドラフト」という空気の現象です。冬に家から逃げる熱の約6割は窓からであり、冷やされた窓ガラスに触れた空気が重くなって床を這うのです。
いくら暖房を強化しても、熱の流出源である窓の性能が低ければ、エネルギーとコストを垂れ流しているのと同じこと。快適な家づくりの第一歩は、この熱の最大の弱点である「窓」を徹底的に強化することから始まります。
2|窓選び、3つの死角
窓は、単にスペックで選ぶだけでは不十分です。性能を最大限に引き出すには、設計と施工の両輪が噛み合う必要があります。
死角① フレームの素材
熱伝導率が樹脂の約1000倍高い「アルミ」フレームは、それ自体が熱を逃がす高速道路です。断熱性を求めるなら「樹脂」が基本。これを軽視すると、どんなに高性能なガラスも意味を成しません。
死角② ガラスの選択
ペアガラス(複層)は最低限の基準。これからの標準はトリプルガラスです。ただし、思考停止で全てをトリプルにするのは最善とは限りません。冬の日差しを積極的に取り込みたい南面では、あえて日射取得率の高い高性能ペアガラスを選ぶ、という戦略も存在します。方角に合わせた「適材適所」のガラス選びが求められます。
死角③ 施工精度という変数
どんなに高性能な窓も、正しく取り付けられなければ性能は発揮されません。壁と窓の隙間に断熱材を隙間なく充填し、防水・気密テープで丁寧に処理する。この現場の施工精度こそが、カタログスペックを実性能に変える最後の鍵となります。
3|家は呼吸する生命体
暖かい家をつくる要素は「断熱」と「気密」だけ、と思っていませんか?実は、そこにもう一つ、「換気」が加わって初めて家の性能は完成します。
断熱と気密
断熱材がセーターなら、気密処理は風を通さない上着です。両者が揃って初めて、家は外気の影響を受けにくい「魔法瓶」の状態になります。家の隙間の量を示すC値は1.0以下が目安ですが、トップレベルを目指すなら0.5以下を基準にしたいところです。
忘れられた主役「計画換気」
高気密な家は、いわば密閉された空間。だからこそ、新鮮な空気を取り入れ、汚れた空気を排出する「計画換気」が不可欠です。特に、排気する空気の熱を回収して給気に伝える「第1種熱交換換気システム」は、室温を保ちながら換気ができるため、省エネと快適性を両立する上で極めて重要です。断熱・気密・換気は三位一体。この視点なくして、真に快適な家はあり得ません。
4|設計で操る、光と熱
吹き抜けのような開放的な間取りは、性能が低い家では寒さを増幅させるだけの装置になりがちです。しかし、性能を高めた上で、自然のエネルギーを巧みに利用する「パッシブデザイン」の思想を取り入れれば、憧れと快適さは両立できます。
冬の対策:太陽を招き入れる
南面の窓を大きく取り、冬の低い太陽光を室内の奥まで取り込む。高断熱・高気密な家であれば、その熱を逃さず、日中無暖房で過ごせる時間も増えます。シーリングファンで空気を攪拌すれば、吹き抜けは家全体の温度を均一にするための優れた装置に変わります。
夏の対策:太陽を遮る
冬に暖かい家は、夏に暑くなりやすいという事実を忘れてはいけません。夏の日差しは、窓の外で遮るのが最も効果的です。設計段階で軒(のき)や庇(ひさし)の出を計算し、夏の高い日差しをカットする。あるいは、窓の外側に設置するブラインドやシェード(外付けブラインド)を計画することが、夏の快適性を大きく左右します。
5|未来価値への賢い投資
ここまで専門的な話をしてきましたが、最も重要なのは、性能の価値を理解し、対話できるパートナーを見つけることです。打ち合わせでは、ぜひこう質問してみてください。
・「UA値(断熱性能)とC値(気密性能)の目標値を教えてください」
・「気密測定は全棟で実施していますか?いつ測定しますか?」
・「標準の換気システムは何ですか?熱交換型ですか?」
これらの問いに明確に答えられるかは、その会社の性能に対する姿勢を示すリトマス試験紙です。
性能への初期投資は、単なるコストアップではありません。それは、光熱費の削減、ヒートショックのリスク低減といった家族の「健康」、そして何より日々の「快適」というリターンを生み出します。さらに、2025年から省エネ基準への適合が義務化されるなど、住宅性能は今後、その家の「資産価値」を測る上で決定的な指標となります。
デザインという「今の満足」と、性能という「未来の価値」。その両方に目を向けることこそ、後悔しない家づくりの本質と言えるでしょう。
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