心と体を整える至高の住まい。
性能の先にある家の本質
家づくりは、この数十年で大きく進化しました。断熱や気密の性能は高まり、自然素材の良さも見直され、昔から受け継がれてきた設計の知恵も、現代の暮らしに合わせて洗練されています。これらは快適で安心できる家をつくるうえで欠かせない要素です。ただ、どれも「外から守る」ことを中心に発展してきた技術でもあります。
一方で、現代の暮らしには、外の環境だけでなく、心や体の内側にたまっていく疲れもあります。そのような背景を考えると、家が果たす役割は、守るだけではなく、人が整うための場所としての側面もこれからは大切になっていくのではないでしょうか。
1|整う家の視点
断熱・気密・自然素材・設計術。これらは今の家づくりに欠かせない基本です。しかし、この基本が整った今だからこそ、家の役割をもう少し広く考えてみる余地があります。
外の暑さや寒さから守ることはできても、日々の生活で積み重なる心身の疲れまでは、性能だけでは十分に癒せないことがあります。「家に帰っても落ち着かない」「休んだはずなのに疲れが残る」そんな声を耳にすることも増えてきました。
これから家づくりを考える方にとって、家は心や体にどんな影響を与えるのかという視点は、性能と同じくらい大切な判断材料になります。
2|自然と響く設計
日本の家には、自然と上手に付き合う知恵がありました。風の通り道をつくり、光の入り方を調整し、木や土の素材が持つ香りや質感が、暮らしに落ち着きをもたらしていました。こうした設計の工夫は、単なる間取りの話ではなく、自然のリズムと人のリズムを合わせるための知恵でもあります。
断熱や気密が「外から守る」ための技術だとすれば、設計術は「内側を整える」ための工夫です。自然との距離感をどうつくるかは、これから家づくりを考える方にとって、暮らしの心地よさを左右する大切なポイントになります。
3|回復する住まい
家に帰ったとき、ふっと呼吸が深くなる瞬間があります。体の緊張がゆっくりほどけていくような感覚を覚えることもあります。それは、温度や湿度、光の質、素材の触感など、家のさまざまな要素が重なって生まれるものです。
こうした体験を重ねるうちに、家は人の心や体に作用する環境であることが、少しずつ見えてきました。家は避難場所であるだけでなく、人が本来の状態に戻るための場所にもなり得ます。この視点は、家づくりの選択肢を広げ、どんな暮らしを望むのかを考えるきっかけにもなります。
4|天照石との運命の出会い
この考えを深める中で、私は「天照石」という素材に出会いました。九州の限られた地層から採れる天然の石で、電気やガスを使わずに遠赤外線を放つ性質があります。その遠赤外線は、体の表面ではなく、内部の水分に働きかけるとされ、じんわりとした温かさを感じることがあります。
冬の日なたに立ったときのような、穏やかな温もりに近い印象でした。素材そのものが持つ力が、家の環境にどんな変化をもたらすのか。その可能性に触れたことで、家づくりの視点がさらに広がりました。
5|包まれる空間性
天照石をただ置くだけではなく、家そのものに溶け込ませる方法を検討しました。天井や壁、床に素材を混ぜ込むことで、空間全体が穏やかな温かさを帯びるような環境がつくれないか。そんな発想から、家全体をひとつの「包まれる空間」として捉える試みが始まりました。
玄関に立つときも、廊下を歩くときも、寝室で目を閉じるときも、家が一定の質で人を受け止めてくれるような空間。これは、家づくりを考える方にとって、どこにいても心地よい家をどう実現するかという具体的なヒントにもなります。
6|性能から作用へ
これまでの家づくりは、性能を高めることが中心でした。断熱性能、気密性能、耐震性、素材の安全性。どれも欠かせない要素です。しかし、性能が成熟した今、家が人にどんな作用をもたらすのかという視点も同時に大切になってきています。
夜の眠りが深くなる。呼吸がゆっくり整う。冬の冷たさがやわらぐ。心が落ち着く。こうした変化は数値では測りにくいものの、暮らしの質に大きく関わる要素です。
家づくりを考える方にとって、性能の先にある体験を意識することは、後悔しない家づくりの大切な判断軸になります。
7|「性能」を超えた新しい家のカタチ
断熱は外気から守るための技術。気密は快適さを保つための技術。自然素材は体への負担を減らすための選択。設計術は自然と人をつなぎ、心身を整えるための知恵。そしてその先に、回復する家という新しい視点があります。
家はただの器ではなく、人が日々の暮らしの中で整い、明日へ向かう力を取り戻すための環境にもなり得ます。これから家づくりを考える方にとって、この視点は、性能やデザインと同じくらい大切な判断材料になるはずです。
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