愛着を育む、木の窓という選択。
木製サッシを標準にした理由。
家づくりには、時代ごとに求められる「正解」があります。これまで私は、「冬は暖かく、夏は涼しい家こそが家族を守る」と信じ、性能を第一に考えてきました。その信念のもと、メンテナンス性と断熱性に優れた最新の樹脂サッシを標準仕様としてきたことは、プロとして胸を張れる選択でした。
しかし、多くのお客様と家づくりを重ねる中で、私の心には新たな問いが生まれていました。「性能数値が良いだけで、本当に『豊かな暮らし』と言えるのだろうか」と。断熱性や気密性は、家づくりの揺るぎない土台です。ですが、その完璧な空間の中で、ふと無機質な窓枠に触れたとき、どこか寂しさを感じたことはないでしょうか。
そこで私は、これからの家づくりの標準仕様を、木製サッシへ改めることにしました。これは単に部材を変えるという話ではありません。性能という土台の上に、心からの充足感を築き上げる。そんな家づくりへの、私の静かな決意です。なぜ私がこの窓を選んだのか、その理由をお話しさせてください。
1|数値だけでは測れない「心地よさ」
「高断熱」「高気密」は、もはや特別な言葉ではなく、現代の家づくりの「基本」となりました。私自身、Ua値などの数値を追求し、物理的な快適さを提供することに全力を注いできました。しかし、性能を突き詰めるあまり、見落としていたものがあります。それは、数値には表れない情緒的な価値です。
樹脂サッシは合理的で、非常に優秀な工業製品です。しかし、「触れたい」と思わせる温もりや、時間の経過と共に深まる美しさがあるかといえば、それは木に分があります。冬の朝、窓辺に立ったときに触れる枠の柔らかさ。夕日を浴びて飴色に輝く木目のゆらぎ。効率や合理性とは対極にある、こうした「感性への響き」こそが日々の暮らしを彩ると、私は考え直しました。性能という絶対的な安心の上に、心に寄り添う温もりを添える。それが、私の新しい家づくりの基準です。
2|ふるさとの森から届く、木の窓
私が数ある木製サッシの中からこの窓を選んだ理由はただ一つ。 それが、私の地元の宝「八溝杉(やみぞすぎ)」から生まれた窓だからです。家を建てることは、その土地に根を下ろし、生きていくということ。 ならば、その土地で育った木で家を建てるのは、ごく自然なことだと感じます。
■ 森が育んだ窓
茨城、栃木、福島にまたがる八溝山地。朝霧が立ち込める静かな森、久慈川の源流となる清らかな水、そして凛とした冬の空気。その厳しい自然の中で、ゆっくりと、しかし力強く天を目指して育った八溝杉は、年輪が細かく詰まり、美しい艶と粘り強さを持ち合わせます。この窓は、八溝の森の空気と物語を、そのまま家に届けてくれる存在なのです。
■ 地元の木が家を守る理由
これは情緒的な話だけではありません。 その土地の気候で育った木は、その土地の気候に最も強い。夏の湿気や冬の乾燥に耐える力を生まれながらに持っています。地元の木を使うことは、長く安心して暮らすための合理的な選択。 さらに、地域の林業を守り、経済を循環させることにも繋がります。ふるさとの木で建てる家は、あなたの暮らしをより温かく、未来へと続くものになるのです。
その森の恵みを最高の技術で窓へと生まれ変わらせてくれるのが、雪深い山形県米沢市の熟練の職人たちです。日本の気候を知り尽くした彼らの手によって、八溝杉は初めて、現代の住宅に求められる高い断熱・気密性能を持つ窓となるのです。
3|時と共に美しくなる、家の顔
家の外観は、その家の「顔」であり、街並みの一部です。私が得意とする杉板の外壁や塗り壁に、木製サッシを合わせた時の佇まいを想像してみてください。樹脂サッシの均一な表情とは異なり、木のフレームが描く陰影は、家に独特の品格と奥行きを与えます。
そして、木製サッシの大きな価値は「経年変化」です。もちろん、新品のまま変わるわけではありません。陽の光や雨風を受け、色は徐々に変化し、表面は風化します。しかし、それを「劣化」と捉えるか、家族の歴史を刻んだ「味わい」と捉えるか。私は、後者の価値観を大切にしたいと思います。適切に手を入れながら、古びるほどに美しくなる。そんな、時間が価値を育むデザインを目指しています。
4|木製サッシの本当の話
ここまで良い面をお話ししましたが、木製サッシには注意点もあります。採用にあたっては、その両面を正しくご理解いただきたいのです。
お手入れは大変ですか?
正直に申し上げます。手間はかかります。樹脂サッシのように「メンテナンスフリー」ではありません。特に雨や紫外線が当たる外部は、数年〜10年に一度程度の再塗装が必要です。これを「面倒な作業」と感じる方には、おすすめできません。しかし、この「手をかける時間」も含めて家を愛でる楽しみだと感じていただける方には、かけがえのない時間になります。もちろん、メンテナンス方法は私がしっかりサポートします。
雨漏りや腐食の心配はありませんか?
「木」である以上、リスクへの対策は必須です。木は自然素材なので、環境によっては反りや伸縮が起きます。だからこそ、私は「設計」で守ります。軒(のき)を深く出して雨が窓にかかりにくくする、水切れの良い納まりにするなど、建築的な工夫で木を腐食から守ります。単に窓を変えるだけでなく、設計そのものを木製サッシに合わせて最適化しています。
コストは高くなりますか?
初期費用は上がります。一般的に木製サッシは高価です。しかし、私はこれを「贅沢品」ではなく「標準」にしたいと考えました。メーカーとの連携や規格サイズの活用により、コスト上昇を可能な限り抑える努力をしています。30年、50年と続く暮らしの満足度を考えれば、十分に価値のある投資だと確信しています。
5|私が描く、未来の家の風景
私が家づくりを通して成し遂げたいのは、ただ高性能な箱を「建てる」のではなく、ご家族が記憶に残る時間を過ごす「舞台」を創ることです。「少し手間はかかるけれど、やっぱりこの窓にしてよかったね」と、10年後、窓辺でコーヒーを飲みながら微笑み合えるご家族を増やしたい。今回の標準仕様の変更は、そんな未来を描くための、私の新しい約束であり、決意表明です。
もちろん、この考え方がすべての方にとっての正解だとは思いません。ですが、もしあなたが、効率やスペックだけでは満たされない何かや、時間と共に深まる愛着を大切にしたいと思われるなら、私の考えに共感していただける部分があるかもしれません。
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